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札幌地方裁判所 平成元年(わ)531号 判決

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中二五〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、平成元年六月五日午前三時二〇分ころ、札幌市豊平区〈住所略〉所在の近藤孝二(当時三五歳、以下「孝二」という。)方一部三階建住居兼店舗の一階有限会社〈近〉近藤商店(代表者孝二)店舗内において、同会社所有の現金一万六四〇〇円位並びに煙草二個(時価合計四四〇円相当)及びライター二個(時価合計二〇〇円相当)を窃取したが、三階に上がり廊下から部屋を覗き込んだ際、就寝中の孝二に発見され、あわてて一階店舗まで駆け降り、被告人を捕まえようと追い掛けてきた孝二から逃れるべく同店舗内を逃げ回り、店舗出入口シャッターを開けて逃走しようとしたが開かなかったため、侵入口である二階西側洗面所の窓から逃げようと階段を駆け上がり始めたところ、階段途中で、物音を聞きつけ二階から降りてきた近藤豊二(当時六九歳)と、被告人を追って階段を登ってきた孝二との間に挟み打ちとなって、孝二らに腕などを掴まれたものの、その手を振り払って二階西側洗面所の窓まで行き、同窓を開けて体を乗り出して逃げようとしたが、孝二らに腰や足を掴まれて逮捕されそうになるや、逮捕を免れるため、窓枠に手を掛け仰向けになった姿勢で足をばたつかせて孝二の腹部及び胸部下付近を数回足蹴にし、着衣を掴んでいた孝二の右手に噛みつき、左手を引っ掻き、更に右窓の外にあった薪や庭箒を手で掴んで孝二に向けて振り回すなどの暴行を加え、その際、右暴行により同人に対し加療約三九日間を要する左第七肋骨骨折、左肘関節部、前膊部、手背、手指打撲及び擦過傷等の傷害を負わせた。

なお、被告人は、本件犯行当時心神耗弱の状態にあった。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法二四〇条前段に該当するところ、所定刑中有期懲役刑を選択し、右は心神耗弱者の行為であるから同法三九条二項、六八条三号により法律上の減軽をし、なお犯情を考慮し、同法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中二五〇日を右刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、被告人は精神薄弱者で、犯行直前においては精神上の弾力性を喪失した状況にあり、自らの判断で窃盗に及ばないように行動規制することはできず、窃取後の暴行行為も原始反応に基づくものであるから、本件犯行当時、被告人は責任無能力であって、心神耗弱の状態にとどまらず、心神喪失の状態にあり、無罪である旨主張するので、以下この点について判断する。

二  まず、本件犯行及びその前後の被告人の行動についてみるに、前掲「証拠の標目」挙示の各証拠(以下「本件各証拠」という。)、被告人の司法警察員に対する平成元年六月六日付供述調書(五枚綴りのもので、署名が五枚目表一一行目にあるもの)、小林正明の司法巡査に対する供述調書、司法警察員市川為通作成の強盗致傷被疑事件捜査報告書及び司法巡査三和正人作成の強盗致傷被疑事件捜査報告書によれば、次の事実が認められる。すなわち、

(1) 被告人は、平成元年六月三日ころから札幌市豊平区〈住所略〉所在の○○荘一二号室で勝手に寝泊まりしていたが、同月五日午前三時ころ、金員を窃取しようと思い立って同室を抜け出し、金のありそうな店を探して徘徊するうち、判示近藤商店の建物(以下「本件建物」という。)が目につき、同商店に忍び込んで金員を窃取しようと決意し、最初表のシャッターを開けて侵入しようとしたものの開かなかったため、侵入口を探しながら裏手に回り建物内の様子を窺ったところ、電気の光が見えず誰もいないように思えたので、施錠されていない本件建物の二階西側洗面所の窓から土足のまま侵入したこと

(2) 被告人は、侵入後直ちに一階店舗に降り、まず、現金が保管されている可能性の高いレジスターや手提げ金庫内から紙幣、硬貨を窃取し、次いで、自分が喫煙するために煙草やライターを窃取したこと

(3) 被告人は、近藤孝二(以下「孝二」という。)に発見された直後、一階店舗に逃げ降り、シャッターを開けて逃げようとしたもののシャッターが開かなかったため、同所北側窓から逃げようとしたが鉄格子があってこれまた逃げられず、一階から逃げられないと分かるや侵入してきた二階窓から逃げようとする行動を起こしていること

(4) 更に、被告人は、判示認定のとおり、孝二らに腰などを掴まれて逮捕されそうになるや、孝二に暴行を加えて逃げ延びていること

(5) 本件犯行後、被告人は、犯行当時着用していたジャージズボン、靴下を人家の庇の上に投げ捨てるといった、罪証隠滅工作を窺わせる行為をし、また、右同じ家の玄関土間から運動靴を盗み出してこれを履き、右○○荘に逃げ帰っていること

(6) 被告人は、本件における右一連の行動について、本件建物の一階店舗内で鉄格子がある窓から逃げようとしたこと及び二階窓付近で孝二の手に噛みついたり、またその手を引っ掻いたりしたことなど一部記憶が欠落している部分があるものの、全体としては概ね記憶を保持していること

以上の各事実が認められる。

これらの事実に照らせば、被告人の金員を窃取しようという動機そのもの、本件犯行の態様、犯行前後の行動は合理的で、通常人の行為としても了解可能なものということができ、責任能力に欠けるところはないようにも思われる。

三1  しかしながら、他方、本件各証拠、近藤孝太郎(二通)及び藤井芙美子の司法警察員に対する各供述調書、司法巡査作内正仁作成の各強盗致傷被疑事件捜査報告書、札幌市立平岸小学校長作成の「指導要録の送付について」と題する書面(小学校児童指導要録写等四枚添付)、札幌市立平岸中学校長作成の「生徒指導要録写しの送付について」と題する書面(中学校生徒指導要録写等九枚添付)及び神奈川医療少年院長作成の回答書(個別的処遇計画書写等三枚添付)によれば、次の事実が認められる。すなわち、

(1) 昭和五〇年五月(小学校二年次)当時の被告人の知能検査の結果は教研式新制学年別知能検査SS一六であり、小学校一年から六年までの学習評定は二年及び三年次の体育が「二」であったほか、他はすべて「一」で、五年、六年次になっても、読み書きの初歩的な理解がほとんどできなかったこと、昭和五五年四月に中学校に入学したが、中学校一年次の学習評定は、外国語(英語)が「二」であったほか、他はすべて「一」であって、学業成績も小学校と同様振るわず、昭和五六年四月(中学校二年次)当時の被告人の知能指数(鈴木ビネー式知能検査、以下の知能指数はすべて同検査による数値である。)はIQ五五で、平仮名は半分程度しか読み書きができず、算数は一桁の加減でも繰上がり、繰下がりがある計算はできなかったこと、その後中学校二年次の途中から初等少年院(神奈川医療少年院)を経験し、中学校卒業後の昭和五八年一二月、精神薄弱者更生施設である富ケ岡学園に入所したが、その当時の知能指数はIQ五七であったこと、本件後の知能検査(平成二年二月八日施行)においても、被告人の知能指数はIQ五二という結果が出ており、知能年齢は八歳四月で、精神医学上は軽度精神薄弱者にあたること

(2) 被告人は、昭和五一年六月ころ(小学校三年次)から窃盗を繰り返すようになり、児童相談所の度々の指導も効果がなく、昭和五六年一一月二〇日から昭和五八年三月三〇日まで右神奈川医療少年院に入院したが、同少年院を退院後母親が引取りを拒否したことから、更生施設大化院において生活するようになり、その間そば屋、鉄筋・塗装関係などの仕事に就いたものの、能力的に就業が困難であったためいずれも退職を余儀なくされ、同年一二月に右富ケ岡学園に入所したが、被告人は同学園内でも窃盗行為を繰り返し、園生同士の人間関係もうまくいかず、本件犯行直前の平成元年五月二八日には同学園を無断で飛び出し、同月三一日にホテルの空き部屋に侵入し逮捕されたこと

以上の各事実が認められる。

そして、これらの各事実を総合すれば、被告人は幼少時からいわゆる知恵遅れの子供で、現在においても軽度精神薄弱の知能水準にあり、しかも、少年時から盗癖が顕著で、学校生活や社会生活に適応することができず、結局、このような状態は本件犯行当時も続いていたものと認められる。

2  更に、以上の事実に加え、鑑定人石澤秀明作成の鑑定書及び証人石澤秀明の当公判廷における供述(以下「石澤鑑定」という。)とを総合して考えれば、被告人に対するロールシャッハテストの検査結果では、総反応数が五個しかなく、しかもいずれも純枠形態反応であって人間運動反応及びその他の動きを伴う反応が皆無であり、そのことからすると、被告人は物事を主体的に捉えて適応していく能力に問題があること、また被告人には、自分の感情の揺れを感じて統制したり、考えや行動を反省する力も劣るという特徴があること、心理検査の所見や一般的観察結果に照らしても、被告人は現状の把握や言語的表現では比較的良好な能力を有しているものの、IQが五二と低いため、全体として物事を把握し、主体的な見通しを持って現実に対応していく能力はかなり低く、また、物事を全体との関係において、あるいは時間的なつながりの中で捉えることもできにくく、結果として、眼前の状況に直に左右されやすいうえ、しばしば衝動的行為が出現するという性格を有していることが一応肯認できる。

3  そして、右鑑定人は、被告人に対し問診や心理検査を試み、被告人の知能と性格特性を浮き彫りにしたうえ、本件犯行の経過などから、被告人の本件犯行当時における責任能力について、本件の事実経過を前段と後段の二つに分断し、本件建物(孝二方)に侵入し、同人に発見されるまでの段階における被告人の責任能力については、被告人が、内的な倫理感が十分に醸成されているとはいえないが、一般的な善悪の判断が被告人に欠けているとは考えられず、また被告人の知能よりして、一定の衝動性の高さが存在すると推量されるものの、責任能力を減免すべきほどのものとは考えられないとして完全責任能力を肯定するのに対し、家人に発見された以降の被告人の責任能力については、被告人との問診の結果、被告人は「その時は、ただ逃げたい一心で、夢中であった」「何をしたかはっきり覚えがない。相手がケガしたことには気づかなかった」と答え、記憶の欠落があったことが窺われること、被告人が眼前の状況に直に左右されやすく、しばしば衝動行為が出現すると考えられる傾向を有していること、また、物事を予期する能力も低いことから、家人に発見された際の驚きは正常知能の人間に比して大きいものであったと考えられるとしたうえ、普通の成熟した人格であれば、人格が刺激と反応の中間回路の役割を果たすのに、被告人の場合、家人に発見された以降においては、その人格が右の役割を果たすことなく体験刺激が直接無媒介に衝動的な瞬間行為として現れてくる、「原始反応」に近い狼狽行為とでも呼ぶべき状態であったと推測し、被告人は限定責任能力であった旨結論づけている。

四  そこで、以上を踏まえて、被告人の本件犯行当時における責任能力について判断を加える。

1  まず、本件窃盗行為当時における責任能力について検討するに、被告人は少年時から盗癖が顕著であること及び本件窃盗に至る経緯・動機などに照らすと、本件窃盗については衝動的に犯行に及んでいることが認められる。しかし他方、前掲各証拠によれば、被告人は、前記神奈川医療少年院で矯正教育を受けた結果、一時的にせよ在院中の後半においては同少年院内での窃盗行為がなくなったこと、前記富ケ岡学園内で盗みをした場合、当初は自分が盗んだことを認めず、証拠を突きつけられて初めてこれを認め土下座などして謝罪する態度を示したこともあったこと、本鑑定の際にも、鑑定人に対して「盗むことは悪いことだ」と述べていることが認められ、これらの状況を考えれば、被告人に一般的な善悪の判断が欠如しているとは認められない。更に、前記認定のとおり、被告人は深夜の時間帯に、金のありそうな商店として本件建物を選び、軽率にも家人がいないものと考えたとしても、無施錠の窓から本件建物に侵入し、躊躇することなくまずレジスターや手提げ金庫内から現金を盗み、次いで自分が喫煙するために煙草やライターを盗んでいることなどに照らせば、この種犯行を行う者としては合理的かつ冷静な行動をとっていることが認められる。また、被告人は、捜査段階及び当公判廷で窃盗の社会的な意味を認識し反省を示す供述もしており、これらの点からすれば、被告人が本件窃盗行為当時、窃盗という行為の是非善悪を弁識する判断能力を有していたことは十分これを肯認できる。そうすると、被告人は、本件窃盗行為当時、知能の劣りのため是非善悪を弁識しこれに従って行動する能力において、通常人に比し若干の劣りがあったことは窺われるものの、それ以上に著しく劣った状態すなわち心神耗弱の状態になかったことが明らかである。

2(一)  次に、本件暴行行為当時における責任能力について検討するに、孝二に対し判示暴行に及んだのは石澤鑑定の指摘する原始反応に近い狼狽行為のためであったと認められるとしても、その際被告人が判断能力や制御能力を完全に失った状態に達していなかったことは、判事暴行の態様や同暴行直後における被告人の行動がかなり合理的であることなどに照らし明白である。更に、石澤鑑定によれば、被告人には知能の点を除き、他にその判断能力などに影響を及ぼすような精神病など精神障害が存在しないことも明らかである。したがって、被告人は、本件暴行行為当時、判断能力も制御能力も完全に失った状態すなわち心神喪失の状態になかったことは明白である。

(二)  しかしながら、前掲各証拠を総合して考えれば、被告人は、家人がいないものと考えて本件建物に侵入し、全く警戒心を抱かないまま行動していた最中、突然孝二から怒鳴られたのであり、軽度精神薄弱者で、衝動的行為が出現しやすい性格傾向を有する被告人にとって、その際の驚愕の程度はかなりのものであったと思料され、また、その後においても、大人二人から体を掴まえられてもひたすら抵抗を示し、更に逃げるためにあらゆる手を尽くして逃走という合目的的行動をとりながら、行為の一部について記憶の欠落がみられるように、被告人がその際異常な興奮状態にあったことが肯認できる。このことに照らし考えると、石澤鑑定は、本件暴行行為当時における被告人の精神状態についての所見としては十分な事実上の基盤をもった合理性のある結論ということができ、他に右所見を動かすに足りる証拠もない。

石澤鑑定等によれば、被告人の本件暴行行為当時における記憶の欠落が他の記憶に比して質的に劣るものか否かは断定できないものの、被告人のように未分化・原始的で構造化の程度も乏しい人格の持主が、家人に発見されるという予期しない事態に立ち至るなど強烈な刺激に遭遇した場合、容易に衝動や情動に支配され、行動を制御することが著しく困難になることは否定できず、そのような状況下で判示暴行に及んだ疑いも払拭しがたいものと認められる。すなわち、本件暴行行為当時、被告人が通常人に比し自己の判断に基づいて自己の行動を制御する能力に著しい減退のあった疑いが強いというべきである。

(三)  したがって結局、以上からすると、被告人は、本件暴行行為当時、行為の是非善悪を弁識しこれに従って行動する能力において通常人に比し著しく劣った状態すなわち心神耗弱の状態にあったか又はそのような状態にあったとの合理的疑いがあるものと認めるのが相当である。

3  なお、被告人は、第五回公判期日の被告人質問において明らかに支離滅裂な言動を示し、幻視、幻聴を訴えていることが認められるが、右支離滅裂な言動及び幻視、幻聴の訴えは、第四回公判期日の被告人質問においてはみられず、また、石澤鑑定からも、問診や諸検査などにおいて右同様の言動や訴えがあったことは窺われないところ、前掲各証拠、本件公判記録、身柄関係記録、検察官作成の捜査関係事項照会書謄本、札幌拘置支所長作成の「捜査関係事項照会書について(回答)」と題する書面及び検察事務官作成の電話通信書によれば、被告人は、平成元年六月六日に本件で逮捕され、同月八日に勾留され(留置場所は代用監獄である札幌方面豊平警察署留置場)、同月二六日に判示事実について起訴されたこと、被告人は右留置場から同月三〇日に札幌拘置支所に移監になり、以後同拘置支所で身柄拘束を受けているが、同年七月一一日に雑居房から独居房に移され、第五回公判期日(平成二年三月一九日)当時は独居房に収容されていたこと、被告人自身第五回公判期日において一人部屋では他の者と話をできなくて辛い旨訴えていること、しかし石澤鑑定の諸検査当時(同年二月六日から同月八日)には精神病など精神障害を窺わせる兆候は何らみられなかったこと、被告人は同年三月二二日ころから右拘置支所内でも奇異な発言をし始め、精神科の医師の診察を受けて拘禁反応と診断され、精神安定剤の投与を受けるに至ったことなどの事実が認められる。以上の事実からすれば、右第五回公判期日における被告人の言動及び幻視、幻聴の訴えは、拘禁反応による心因性の症状と認められ、これが被告人の本件犯行当時における責任能力に消長を来すものではないと認められる。

五  以上の次第であるから、結局、被告人は、本件暴行行為当時において心神耗弱の状態にあったものとして限定責任能力を認めるのが相当であるところ、事後強盗罪は窃盗犯人を身分とする犯罪類型で、実行行為は暴行、脅迫と解されるから、右実行行為たる暴行時において限定責任能力を認めるべき本件においては、被告人は本件犯行全体について限定責任能力者として処断されるべきである。

したがって、弁護人の前記心神喪失の主張は失当であり、これを採用することはできない。

(量刑の事情)

本件は、被告人が、深夜商店に忍び込んで現金などを窃取した後、家人に発見されたことから、逮捕を免れるため暴行に及び、被害者に判示の傷害を負わせたという事案であるところ、被害者の傷害の程度は骨折を伴うもので結果も重大であること、また本件犯行前、被告人は入所していた精神薄弱者施設を飛び出し、ホテルの空室に侵入して逮捕され、いったん検察庁で釈放されながら、その直後右施設に戻るのを拒否して逃走し、金員欲しさから本件を敢行したもので、動機において酌量の余地がないこと、しかも、被告人はこれまで窃盗などの前歴を多数有していること、被害者に対し慰謝の措置を講じていないこと等を合わせ考慮すると、犯情は甚だよくなく、被告人の刑責は重大というべきである。

しかし他方、被告人は、軽度精神薄弱者で、右素因も相俟って本件暴行時は心神耗弱の状態にあり、衝動的に犯行に及んだとみられること、窃取にかかる被害金額がそれほど多額ではなく、そのほとんどが被害回復されていること、被告人の家庭環境やこれまでの成育歴には同情しうるものがあること、被告人は未だ二二歳と若年で、これまでいわゆる前科がないこと、被告人は当公判廷において反省の情を示していることなど被告人に有利に斟酌すべき事情もある。

そこで、これら被告人に有利、不利な一切の事情を総合考慮して、酌量減軽をもしたうえで前示のとおり刑を量定した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤 學 裁判官 河合健司 裁判官 近藤昌昭)

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